河童と桜とお酒と

 桜舞い散るある春の日、僕は月光と共に釣りに出かけた。川沿いの大きな桜の木の下でゆっくり流れる川面に竿を出し暖かい陽射を受けながらぴくりともしな いウキを眺めている。隣の月光はすっかり寝そべり吐息を立てている、僕もウトウトしている、ウキはただただユラユラ揺れている。時間はまどろみ停滞してい る。

 ウトウトしていた僕の後ろから誰かが声をかけた。
「釣れるのかい、釣れないのかい、それとも釣れるのかい、いやいや釣れないだろう、はん、ふう。」
声の主は河童の五平だった。

 頭に皿を載せ、緑色した体をこちらに向け手にした風呂敷から煙草を出すと水かきの付いた手で起用に火をつけた。
「煙草、吸うか?、それとも酒でも飲むか?」
今度は風呂敷から徳利とお猪口を幾つか出して僕の前に並べた。

「花見でもしようや、せっかくだから」
僕と目の覚めた月光は五平からお猪口を手渡されお酒を注がれた。僕も五平のお猪口にお酒を注ぐ、三人でお猪口を眺め、花を眺め、ウキを眺めた。軽い風が吹き舞い散る桜の花びらはお猪口の中にすっと落ちていき浮かんでいる。

「花見酒だな、うんうん。」
五平はそう言うとお猪口を持ち上げた、僕らも同じくお猪口を持ち上げお酒を頂いた。

 気が付くと回りは五平の友達の河童で一杯になっていた。僕らは五平のお酒を皆で飲み誰かが持ってきたキュウリを頬張りながら桜を眺めた。桜は吹雪のように花びらを舞い散らせ一面桜色であった。

  そのときウキが引き込まれていった。慌てた僕はお猪口を落としてしまった。川面には針にかかったフナがいた、紅い緋ブナだった。五平達河童は皆飲んで踊っ ていた、僕は連れた緋ブナを持ち上げ桜の木を眺めた。今日もいい天気だった。河童達はいつまでも踊っていた、いつまでも笑っていた。
Comments